ベルリン少女レイプ狂言事件の政治的背景


2月初め、ベルリンの少女が難民にレイプされたと嘘をついたという狂言事件が話題になりました(「難民が集団強姦」、少女の作り話だった ドイツ:CNN)。
当時日本ではあまり認識されていなかったのですが、この事件はロシアが欧州極右をディスインフォメーションを使って扇動し、ドイツ政府特にメルケル首相を攻撃したという点で、欧州でひとつのエポックとなる出来事でした(当時についてはこのあたりを参照(1, 2, 3))

またこれもあまり把握されていないのですが、ロシアはネットを含めたいわゆる「陰謀論プロパガンダを通して欧州極右・極左に強い影響力を持っています(日本でこのライン上にあるのは一水会)。
フランスの極右国民戦線へのロシアの多額の融資(参照 1, 2)は西側でかなりのスキャンダルとして伝えられましたが、既に知られる通り、ロシアが影響力を持つこれらの極右・極左政党は欧州政治のメインストリームに入り込みつつあります。

ただベルリンの事件の背景は日本では共有されていない部分が多い為に、わたしが理解している部分に限定しても、きちんと解説するのはかなり面倒な作業になってしまいます。
今回このエントリを立てたのは、ベルリンの事件に関するロシアと極右及びドイツ政界の関係について記事を一部紹介する為ですが、これらの理由で事件についての解説は思い切って大幅に省くことにします。


以下、ロンドン拠点の民間シンクタンク「欧州外交評議会」の記事から何箇所か翻訳引用を。だいたいのところですが。
Russia’s hybrid interference in Germany’s refugee policy | European Council on Foreign Relations

しかしこれは単なるプロパガンダか? デモはロシアのプロパガンダマシーンであるペギーダや「ドイツの為の選択肢 (Alternative für Deutschland, Afd)」だけでなく、まさにネオナチのドイツ国家民主党 (NPD) などの過激派活動家との協力も露わにした。ロシアは右派のドイツ野党の組織化と資金提供を始めているだろうか? オーストリアでは右翼過激派への露の財政支援が長く確立されているが、ドイツには安定したカウンターパートはおらず、異なる政治文化がそのような政策を難しくしている。露は今までポスト共産主義の盟友である左翼党や、SPDのロシア贔屓派(管理人注:シュレーダー元首相など)に当てにしてきた。しかしAfdの支持率が上がり、情勢は一変した。

                          • -

第二に、ポスト共産主義政党である左翼党 (Die Linke) は未だ無条件に親露である一方、この党の与党連合入りのチャンスは狭まっている。クレムリンとの近さが他の左派政党(緑の党SPD)から孤立させ、左派連立を難しくしている。左翼党の反米・反欧州・(非ロシアの東欧の人々への)排外主義は右派政党とますます似てきている。

露の影響増大は、その流入をとどめようとする熱意でドイツのメインストリーム政党を団結させつつある。結果、ドイツの緑の党メルケル自身の党の一部の派閥よりも、メルケルを支持している。


おそらく基本的に、ロシアに対し欧州で団結していこうという趣旨で書かれた原稿なので、後半、訳出部分以外はやや予測と希望的観測が入り混じった内容になっています。

誰が見てもロシアのやり方がまともな人間を遠ざけるのは明らかで、その干渉はドイツについてむしろ逆効果になるだろうというのが、この原稿後半のだいたいの趣旨でしょうか。過度にロマンティックな言い回しがされているので訳していませんが、以下訳出部分の後、記事の最後の部分で「ロシアが着手した自滅的な政策」という言い方がされています。常識的に見るならば、この評価は正しいでしょう。

最後に、しかしとりわけ、クレムリンのハイブリッド外交政策がどのようなものか一度じかに経験したら、露の干渉からNATO加盟国を守る取組支援へ、ドイツ世論の支持を高めるだろう。


補足的な物も含め、また関連の記事は書くかもしれません。
事件時のロシアのラブロフ外相のポリティカル・コレクトネスについての言及は、ベルリンの事件及び欧州移民問題の日本での受容と直接関わる問題ではあるので(ただしわたしは移民問題についてはろくな知識を持っていませんが)。



【追記】

プロジェクト・シンジケート(参照)のヒー・フェルホフスタット ベルギー元首相寄稿

EUは極右や難民もたらすプーチンに鉄槌を | グローバルアイ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準