おかしな男
中学生か、高校の頃か、学校の帰りおかしな男に声をかけられたことがある。
公園で男は後から私を呼び止め、「そこでパンツ撮らせてよ」と近くの茂みをあごでしゃくった。
それについていくほど私は馬鹿ではなかったが、周囲には人が見当たらないことに気付いて、私は出口までの距離を見ながら丁重に断った。
すると男はまるでそれで私がついてくるのが当然かのように、「一万円あげるから」と自分のジーンズのポケットの札を指してみせた。反射的に私は「よけいいやです」と返したが、我ながら今馬鹿なことを言うものだとおもった。
しかし男はそれであっさり引き下がり、そのまま元の方に歩いていった。
ほっとすると同時に私はなぜかその男に申し訳ないような気がして、すいませんと言いその場を離れたが、ここで転んだら今度はもう逃げられないのではないかと、出口まで一度も後ろを振り返ることができなかったことを覚えている。
男の顔は忘れたが、その時の周囲の様子ははっきり目に残っている。
その間じゅう、誰ひとりそこを通らなかった。