北朝鮮人権法案関連 脱北問題について、中国をめぐって(改題済み)

(順序や舌足らずな所を、多少書き換えました。内容自体に特に変化はありません)


発端になったエントリ
民主党 長島昭久議員のブログが、北朝鮮人権法案言及で炎上している事について


どの辺から書くかちょっと迷っているのだが、とりあえず中国関係から。脱北問題は中国問題であるとも言える。アメリカの北朝鮮人権法案の抜粋(参照)を見てもらえば判るが、アメリカは中国の脱北者送還を非常に問題視しており、そこに対する言及が多い。ご存知の通り、送還されると収容所行きとなるケースもしばしばであり、死刑に処されてしまう人間も多い。この法案の中で、アメリカは脱北者を強制送還する中国を難民条約に違反しているとし、国連難民高等弁務官(UNHCR)の業務を妨げずきちんと遂行できるよう、協力することを中国に求めている。


条文の中では人身売買のことにも触れられている。中国国内での人身売買の存在はよく言われるところだが、脱北者も多く犠牲になっており、その状況は相当深刻である。実例を読んでいくと、障害者家庭に売られたという話が多い。この辺も作り話が殆どだといいたい人も多いだろうが、明らかに煽りの要素の入っていない話でも、十分に「くる」。ハナから日本とは違う環境なのである。また脱北者を中国の公安が執拗に摘発していく状況があり、中国国内の脱北者は身元を隠し過酷な状況下で暮らしている。公安に見つかったら即座に強制送還であり、中国から脱出しない限り、脱北者にとって負の連鎖はとまらない。
この件について中国のやっているのは、当に非人道的と非難されて然るべき行為であり、「中国に脱北者を引き取らせる」などという選択肢は存在しない。脱北者への扱いについて、中国はアメリカからも、国際機関からも非難されている。(補足に追記)



中国はUNHCRの仕事を多々妨害しており、一年前時点の話では(今どうなっているかは分からない)、UNHCRは中朝国境に視察にすら行こうとしないと救援活動家たちから非難されていた。彼らは日本はUNHCRに多額の金を出しているのだから、圧力をかけるべきなのだとも言っていて、日本の人権屋にはない感覚だなと思ったことを鮮明に覚えている。だが、実際こういった働きかけを現在日本政府がしているかといえば、(国連人権委員会で拉致を働きかけていくとはあったものの)おそらくあまりしていないのではないか。


条文の中で、こういう一文もある。

(2) 難民との面会は、UNHCRの任務遂行上、およびUNHCR支所の目的上、不可欠なものであることから、現状においてこれらの仲裁手続きの権利主張の不履行は、UNHCRの中心的な責務の一部の著しい放棄となる。


UNHCRの不作為への明らかな牽制である。これらを見ても判るように、国際社会から見てその不作為は際立っていた。それだけ中国の妨害が強いということであり、遠慮会釈もなくUNHCRに圧力をかけていた事が読み取れる。



ヘルシンキ条約について触れたが、アメリカはそのような考えに従って体制崩壊を視野に入れている。この辺り、注に入れたように大統領の支持層である宗教保守派の主張でもあった。法案自体は議会に提出されたものであり、大統領が大きく関わったものではないが、拉致問題に協力している団体にも、ブッシュ支持の保守系宗教団体人権団体の存在がある。またマルコポーロ事件で有名なユダヤ系団体サイモン・ウィーゼンタール・センターも尽力してくれており、ヘルシンキ条約スタイルでの解決に関してシャランスキーの名前にも突き当たったが(ピンと来ない方は注のリンク先を)、アメリカで拉致問題が取上げられるようになったのには、これら人権団体の存在がある。


中国では地下教会の弾圧も深刻だが(これについては当然バチカンとも揉めている)、脱北者拉致被害者と会ったのと同じように、大統領は地下教会の人間と面会し、中国に圧力をかけている。アメリカの中国に対しての人権圧力は、ある種の武器としても機能している。日本が脱北問題にコミットするべきという発想も、必ずしも理想論で言うわけではない。日本にとって、ここから圧力をアメリカとともにかけていき、脱北問題を糾弾していく事が必要である。中国に具体的圧力をかけ、北朝鮮にコミットしていくには、日本としてはこの方面から以外選択肢はない。



当然ながら北朝鮮政府は、中国の存在があるから体制を維持しているわけで、朝鮮半島を巡る思惑というのがある。この辺はなかなか難しいので飛ばすが、六カ国協議の枠組みを残す事は以前言及されていて、これも日本としてはあまりよろしくないように思う。中国はこの件を通してアメリカに対して影響力の増大を狙っているし、まあなかなかうまくもいかないようだが、日本としてはその意味でも脱北者に関して中国に対して圧力をかけていくべきだろう。



アメリカの内政についてもう少し触れる。元々国務省路線と国防総省路線は対立しがちたが、北朝鮮に関してはその対立が顕著であり、以前そのおかげで現場が全く機能しなかった時期もあった。その反省によって、ヒル国務次官補にかなりの権限が渡された。だがなかなかうまくいくものでもない。最近もいろいろあったようで、こんな記事が出ていた。(NIKKEI NET:国際 ニュース:米、北朝鮮との平和条約交渉を検討か・米紙報道)(米国務省:対北朝鮮との新政策草案が波紋−南北アメリカ:MSN毎日インタラクティブ



また、しばらく前にイギリスの北朝鮮向けファンドが認可されているが(NIKKEI NET:国際 ニュース:英FSA、「北朝鮮ファンド」の設立を承認(5/30)※)、日本はここに関しての圧力をかけていただろうかという疑問も感じる。北朝鮮レアメタルに恵まれているが、今まではその技術がないために採掘できなかった。欧米にはその開発を巡る動きがあったが、今まではアメリカの圧力があって認可されていなかった。ここに来て認可というのは、どういうことなのかとも思う。また、北朝鮮の海底油田の話もあり(中国との国境周辺など)、中国との共同開発の話がでていた。資源開発を許せば、桁違いの金が北朝鮮には入り、幾ら経済制裁をしようが何の意味もなくなる。今回の法案について、制裁について積極的ではないとの指摘もでているが、自民党のはなし議員の記事を読む限り(後述する)、国際情勢に疎く、働きかけようという意欲も薄い印象を受ける。無論、外務省などはそれとは別に動いているわけだが、ちょっと大丈夫なのかなという印象が拭えない。このところ、国内ではかなり具体的な動きが出てはいるが。


元々去年自民党が出した法案には、脱北者受け入れの条項があった。結局そのおかげで国会にすら出せなかったのだが、その意味で、民主党のみをこの件で責めるのは、ちょっとおかしいのだという事はここに書いておく(前回は失念していた)。



この件に関して、アメリカの偽善などという指摘もあったが、まあんな事言ってもというところだが、実際に脱北者を受け入れ始めたのは、最初のエントリに書いたようについ最近であって、それまでは象徴的な意味が強かった。無論のことアメリカにとっては北の核が一番問題なのであり、拉致問題も二の次三の次だろうが、どちらにしろ日本とアメリカの利害と思惑はかなりのところまで一致している。とりあえずアメリカはまた最近脱北問題や拉致問題について積極的になっているようにも見え、それは日本にとって幸運であるとしかいえない。実際のアメリカの思惑が純粋であろうが不純であろうが、方向性さえ一致できるなら、それはどうでもいい事である。



ま、米中に関してはこれくらい。あとは日本国内についての話だが、確かに民主党の草案は筋違いの要素も大きい。はなし議員の話について、きちんと言及せねばならないところもある。だがこれも改めて。


続エントリ
脱北問題について 国内事情 民主党案「永住」「定住」の記述について