山本太郎議員の北朝鮮核実験抗議決議棄権のロジックについて
昨日1月8日、北朝鮮「水爆」実験衆院抗議決議を山本太郎衆院議員が棄権した事が話題になっていましたが、はてブの反応に頭を抱えたので記事を起こします。
生活・山本太郎代表が棄権 北朝鮮核実験抗議決議の参院採決 与野党30人が欠席 大半は改選組 - 産経ニュース
与野党30人の本会議欠席の理由も逐一記事にして頂きたい所ですが(『計22人が夏に改選を迎える議員』という事なのでだいたいお察しの所)、今回の話題とはズレるので以下略。
で、本編。
北朝鮮決議、棄権について|山本太郎オフィシャルブログ「山本 太郎の小中高生に読んでもらいたいコト」
北朝鮮決議、棄権について(山本太郎) - BLOGOS(ブロゴス)
#スマートフォンからの場合、BLOGOSへの転載記事をPC用画面に切り替える形でないと決議案写真が読めないので、両方のリンクを貼っておきます。
我が国独自の「追加的制裁」は危険だ。
あくまで、国際的な合意と協力の形にするべきと考える。
なぜなら、相手側の挑発に対して、より独自の強硬姿勢を示す事は、挑発に乗った形になる。
我が国との緊張状態は、より強まる。
それは、相手側の思惑にハマった事に等しい。
そうでなければ、わざわざ核実験など行なわないだろうし、水爆実験成功とは、とても言えない結果を、大成功と喧伝もしないだろう。
まず、北朝鮮の核実験(及びミサイル発射)を受けた独自制裁発動をするとすれば、今回が初めてではありません。また単独制裁とは言っても、対北朝鮮制裁は常にアメリカなどとの協調を意識して為されてきており、それに絡む経緯を見て来ていれば「危険だ」などという言葉は今更出て来ないでしょう。
記事中で紹介されているエントリ(参照)にあるような拉致問題での制裁の効果への疑問はそれはそれで意見ですが、制裁が北朝鮮を刺激し状況を悪化させたという事実もまたありません(これも異論もない事はないのでしょうが)。
現在は、拉致問題に関する北朝鮮の「特別調査委員会」調査結果を待つ形で制裁が一部解除されていますが、昨年7月、開始から1年の期限を北朝鮮は延期し、更に半年近く経った今も報告は提出されていません。北朝鮮側に拉致を進展させようという意思は今のところ感じられないというのが現状です。
安倍政権内でも制裁については温度差があるようですが(参照)、拉致問題を放置したまま「水爆」実験を行う事自体、北朝鮮の意思とも取れる訳です。
私が気になっている事の一つは、山本氏がこれらの経緯、北朝鮮の行動パターンを全く無視して論じている事です。
率直に言えば、そうした欺瞞が拉致問題が盛り上がっていた頃によく見たロジックと大変似て見える。
ちなみにご家族の反応。
飯塚代表は「拉致問題は家族の問題。核実験より拉致被害者の帰国が大事だ」とした上で「核やミサイルと比べると国際世論では日本人拉致は重く受け止められていない。日本が強い態度で独自制裁しないと、問題が消えてしまう」と話した。
その上で「日本が強い制裁を科せば、日朝協議は遮断になるかもしれない。それでも、早期に解決すべき問題なので北朝鮮に決断を迫る上では制裁はきつい方がいい」と指摘した。
そして山本氏の主張に最も違和感を感じたのは、
核保有国の、より具体的な削減案を、被爆国として引き出し、それをカードに、北朝鮮との交渉を我が国が主導する意気込みこそ本物でありそのような決議こそ、拉致問題に対しても新しい展開が生まれうるアプローチではないだろうか?
としている部分です。
核兵器開発を人質にした北朝鮮の恫喝外交を飽きる程見せられてきてなお、なぜこんな理屈がでてくるのか。わたしにはちょっと理解しかねます。
彼自身、北朝鮮を挑発の為に核実験をやる国と評価しながら、不拡散の欺瞞を一部でも解消する事がその「無法国家」との核交渉カードになると論じてみせる。これはわたしにはひどく矛盾して見える。
ここで不拡散体制の矛盾を論点として提示する事は、北朝鮮の核開発正当性プロパガンダへの同調ともなっているし、また不拡散の矛盾の構造を指摘するなら、国際的に協調した制裁であれ、日本独自の制裁であれ事情は変わりません。むしろ核保有国5ヶ国が常任理事国に座る国連の方が、山本氏の指摘する核保有の矛盾を孕んでいる。
はっきり言えば、山本氏の議論は結論ありきに見えます。彼自身もかなり考えた形跡はあるけれども、その枠組には強いバイアスがかかっている。そして氏自身がそのバイアスを突破できる程賢明ではない。
最後に、米国による新たな対北朝鮮制裁議案のニュースを置いておきます。
米国:北朝鮮船舶入港を世界中で禁止決議案準備 追加制裁 - 毎日新聞
さてこの後北朝鮮情勢はどうなっていくのか。
わたしにわかるのは、拉致問題以前のようにこうしたロジックを鵜呑みにする人達が大勢確認できたという事だけでしょうか。