海を渡る


空に仮託して語る事など何もない。
青空への思い入れなど、誰かからの借り物でしかないからだ。
この国にありもしない奇岩を描き続けた水墨画の如く、見上げられる空はどこかの幻像でしかないのだから。



海の向こうの幻を追いかけて競ってみせる事だけが、ただ価値なのだとすべてが思い込んでいる。



空はいらない。
嘘もいらない。
誰かの売り物もいらない。
海を渡ってきた何かへの夢も欲望も、すべていらない。


正当性も権威もここにはないのだから。



全ての忘却の上に立って、彼らはわたしを指弾する。
けれど何を以て、己がその見せかけの意志にたどり着くのか、彼らは決して知ろうとはしないのだ。