口紅を変えた事

少し前に買った帽子をあれやこれや被っていて、ふと鏡で自分の姿を見るとまるで少年のようだった。
無彩色のスキニーな服を着て、顔と髪を隠すと性別のイメージが曖昧になる。
身体的には年齢を感じないわけでもないのに、平衡感覚がやや狂う。



だいぶ前にエレベーターに乗っていて、年配の男性がまじまじとこちらの顔を見ていた。奇妙に思いながらエレベーターを降りた後、店で見るともなく服を見ていると、正面の鏡の自分が目に入りギョッとした。肌が見たこともないほど白いのだ。


元々赤ん坊の頃のわたしは色が白かったらしいのだが、何かの拍子に当時の肌の色に戻るようだった。何度か同じような事があって、そのたび自分はいつのまにか忘れているから、要はおそらく元に戻っているのだけれど、一度は結局ファンデーションから何から変えなければならなかった。


それまではっきりした色を選んでいた口紅を白い光の入ったものに変え、淡い色調のリップグロスを合わせる。ほとんどノーカラーのファンデーションと口紅は、未だ変えたそのままだ。

姿の変容

着る服も昔とは随分変わったが、街中で鏡を見ていると、昔の自分とまるで別人のように思える事がある。自分がこの歳として思い描いていた容姿と今は確かにかけ離れているが、時代が己の内面にもたらすものと、それが自身の姿にどう働いているのかが、うまく見えない。まるで意識の影に隠れているように思える。
街を行く女性達の歩き方が、ファッションの流行りと共にワンシーズンで変わったのに気付く事もある。もたらされている変化は大概誰の目にも映らない。社会の意識から見落とされているそんなものがすっと自分に入り込む時、わたしはぞっとさせられる。
世の中の見ている物が、視線の方向が、絶望的に間違っているように感じられる。
生きる事そのものがその笑える程の乖離を強いるのか、それとも単にこの社会によるものなのか。それを自分が知りたいのか知りたくないのか。そんなとば口で、ずっと自分が俊巡を繰り返しているような気がする。