ゴールデントライアングル 中国人船員13人殺害事件の波紋

ここんとこニュースの漁り癖が少し再燃してて、今日は「メルケル首相の水着姿盗撮」とか「中国における日本の女相撲報道フィーバー」とか、メジャーなとこでは「海江田氏写経」とか、胡乱な方面にまで手を出してたのですが、一昨年の事件の続報が出てたのに気がついてそれを主に見てました。



一昨年、いわゆるゴールデントライアングル(中国、タイ、ビルマラオス等にまたがるメコン川沿いの無法地帯。麻薬で有名)で中国人の船員13人が殺されるという事件があって、目隠しをされ、後ろ手を縛られた遺体があがったり、その残忍な殺害方法も波紋を呼んでいた。ショバ代のようなものを渡さなかった為、地元の麻薬武装勢力に殺害されたのでは、という指摘が当初からされていたものの、途中で実は犯人はタイ軍兵士ではないかなど(タイ軍兵士が中国人13人を惨殺した=メコン川中国人船員殺害事件の犯人逮捕 : 中国・新興国・海外ニュース&コラム | KINBRICKS NOW)、よくわからない展開になり、中国国内世論が大変なことになっていたのだった。
しかしそれっきりわたしはこの件を忘れていた。


中国政府は弱腰批判対応で大変だったらしく、治安対策で現地に武装警察(軍隊を派遣しろと言うメディアもあった)を派遣して地元国と巡視部隊を結成したものの、武装勢力に翻弄されまくり、またその動きに国際社会から中国の軍事的な思惑を指摘する声も上がっていたと(【黄金の三角地帯】武装勢力が中国船舶を銃撃=精鋭巡視部隊の雄姿と役立たずっぷり : 中国・新興国・海外ニュース&コラム | KINBRICKS NOW)。



結局、殺害の元締めは地元の麻薬王であろうという結論になったようで、事件から六ヶ月かかりながらも去年四月に逮捕、十一月に中国国内で死刑判決が出た。タイ兵の線も消えたわけではないらしく(タイ軍の一部と地元麻薬武装勢力の癒着という事と思われる)、ひと月ほど前、中国国営メディアがタイ報道を引用してタイ政府と軍に強烈な牽制球を投げていた(「10・5」事件主犯、死刑執行-中国国際放送局)。未だ中タイ政府間の懸案として残っているようだ(ここを調べる前に体力が尽きた)。


死刑執行は今年三月一日におこなわれ、直前の連行の様子を中国の国営テレビ局が生放送して世界に物議を醸した。(【中国ネットウオッチ】外国人の“公開処刑”で国威発揚+(1/2ページ) - MSN産経ニュース
この時点でAFPは、『国営中国中央テレビ局(CCTV)が、4人の刑の執行の瞬間を放映する予定だったかどうかは定かになっていない』とも書いているが(中国で死刑囚4人、刑場までの連行を生中継  写真5枚 国際ニュース : AFPBB News)、その後の展開をフォローしていないので、これについて現在どういう解釈がされているのかは、わたしは把握していない。



やはりこの辺の神経は我々からは理解しがたいところで、中国のネットでも賛否があったらしい。賛があること自体、この国のナショナリズムの怖いところなのだけれども。
該当の動画(▼唸声の気になる映像/中国:メコン川中国人船員13名殺害事件の外国籍犯人4名死刑執行)をわたしも見たが、山崎邦正をイケメンにしたような四十ちょいの男が、半笑いで首や腕に縄を、足に鉄鎖をかけられる様子が映っている(処刑方法は注射による薬殺。処刑時に暴れない為の処置と思われる)。
男は役者と言われても信じてしまうような童顔の二枚目で、とてもではないが残虐な麻薬王とは見えない。本人が感情的な態度を見せるとか、乱暴な扱いを受けているだとか、エキセントリックな様子が映っているわけではないが、見ていてかなりアレな映像ではある。


この件はとにかくいろいろな政治的思惑が入り乱れていて、中国政府は、国内世論の過激化と、世界からの軍事的野心への懐疑に挟まれて大変だったんじゃないかとも思う。「(一応)軍隊を派遣しなかった、捜索で犠牲者を出さなかった」事を、中国側関係者が国営英字紙(環球時報)に自慢気に語っている(Manhunt for deadly drug kingpin - Globaltimes.cn)。
基本的にまったく理解のできない神経ではあるものの、連行の公開放送も、弱腰批判の火消しではあるのだろう。共産党政府への求心力強化に使われたとの指摘は当然あり、そういうあたりへの違和感も強烈に残るのだけれども。



今回この件を備忘録的に書く気になったのは、この動画の様子と、ドローンについての米メディアの記事が、この事件の反響の大きさを象徴していると思ったからだった。


逮捕拘束までには結局半年を要したわけだけれど、追う相手が地元社会と強く結び付いている為に、捜索は困難を極めた。追跡中、無人機からTNT火薬20kg投下して周辺ごと吹っ飛ばしてしまえという話も出たとの関係者証言が、先程リンクした国営英字紙の記事に出ている(それを紹介しているNYT記事 Chinese TV Special on Executions Stirs Debate - NYTimes.com)。
ニューヨークタイムズがこの話に激しく食い付いていて、船員殺害事件そっちのけで、ほぼ中国の軍事用ドローンについての考察のみで記事を書いている(Chinese Plan to Kill Drug Dealer With Drone Highlights Military Advances - NYTimes.com)。


「ドローン使うなんて単なる中国のフカシかもしれないけど、中国世論の過激化からして、使用していたとしても不思議はない。使わなかったというより、無人機本体や操縦者の能力不足で「使えなかった」のでは」という専門家の話を引用し、中国軍の無人機が完全ではないながらも着々と完成度を上げて来ているらしいことを、細かく記事にしいる。



ドローンはオバマ政権がきな臭い場所で多用しており、倫理的な問題から批判も多い。それをこんな件でいきなり中国が使うという話が出てきて、私もかなりギョッとした。


正直この話を記事にするにはわたしは力不足なのだけれど、全体を見渡すエントリを書いておきたかったのでまとめておきました。いろいろと含みのある話ではあるので。


(少し追記しました)