赤い赤い靴

あなたが喋るのをここで見つめている。
あなたは喚く事で私に作用する。
あなたは私の事を何も知らない。

それは仕方がない。私はあなたに何も話していないのだから。


いったいあなたに何を教えられるというのだろう?
私は自分のことなど捉えられない。
苦しみから逃れられない。
苦しみすら何も捉えられない。


あなたは私に侵食してくる。
私の苦しみそのものによって、あなたは私を苦しめる。
社会は私を追いつめる。



あなたは私に可視にしろと求める。私の苦しみをそのまま美しく、あなたの目に耐えるように。
私が救われる結果を、私自身があなたに答えねばならないのか。そしてそれができないゆえ、あなたにとって私は罪人なのだ。

あなたは私にあまりに多くの事を求め過ぎている。私という存在に、深く深く取り返しのつかない傷をつけるほど。



たくさんの人が投げていった言葉も、怠惰による結果の悪意も、それによってできた傷も、存在にそのものに空いた大きく酷い穴も、もう塞がることはない。いずれ私は追いつめられて死んでしまう。
身体を損なったのはなぜだろう?最初から生きていく力がなかったのなら、なぜ誰も私にそのことを教えてくれなかったのか。なぜこの目に見せてくれなかったのか。
お前は駄目だと、あなたはなぜそんな事すら教えてくれなかったのだろう。



感情は私を救っているだろうか。
見つめていたい。見つめていたい。あなたのその透明な意識。
それによって生きていけないとわかっていても、では私はどうして生きてきたのだろうか。これまでの年月。不完全な身体で、足りない力で、何によって私は生きてきたのか。今ここに存在している、私の力は何か。


意識だけでつながれる筈がない。生きている筈がない。



現実を最初から知っていた賢い子供。その子は赤い靴を履いていると誰もが思っていたけれど、それは紙の靴だった。踊るべき靴など望まなかった。ただ歩くための靴が欲しかっただけ。いくら紐を結んでも端からほどけてしまう。ただ踊ってみせるふりすらうまくいかない。
自由などいらない。夢など未来などいらない。内の向こうにある光を見つめていたかった。許されないと、それ故にいつかここを追われるとずっとわかっていたのに。

最後に得たのは先の破綻を見つめる視線。
どうすればよかったのか。最初から人のようには生きられないとわかっていて、ただ意味なく過ぎる時間をここで見つめていろと、手足に体の全てに鎖をかけられたまま。


若さゆえの愚かさを持てなかった事が、いったいどんな結果を呼ぶか。あなたに見えるはずがない。踏みにじる事ができない者が、どんな風に生きねばならないか。そんな事あなたにわかるはずがない。そして語られるべきものでもない。



あなたはそこで何か喋っている。
私の苦しみそのものによって、私を非難し続ける。


否定され続けながら、それでも努力して。気がふれる気配を感じ取るまで、知らない誰かの求める何かを自分に見出そうとして。狂気であろうと、神であろうと、自分自身をただそこに見出そうとして。狂気は神への道程なのかもしれないし、今もってそれは分からない。どのみち私はそこから離れてしまった。
どちらも決して存在するべきではない。悪夢も奇跡もそして恐れも、あるべきものではない。



あなたは奇跡を求めるだろうか?望みとはあなたにとってなんなのか。
あなたは悪夢を求めているのか。それを私に見出すのか。悪夢の内に生きることを、私は怠惰にやり過している。


わかっているのは、自分の意識さえままにならない事。



そこで喚かないで。
日の光の下で、臆面もなく狂わないで。