幻影

フランス語が耳に入って振り返ると、おのぼりさんの団体がいた。
ここの客層も変わったもんだなと、ぼんやり思う。


建物を出ると彼らは所在なげに座っていて、男が二人こちらを見ていた。
彼らはわたしの髪を見ているのだ。



白人の男がこちらを振り返る時、はっきりと嫌悪感を覚える事がある。
共有された幻想は美しいが、時と共にそれは腐っていく。残るのは、性的な欲求と結びついたそれでしかない。


イメージが依存するのは、その場の道具立てであり、恋人ともう一人の女であるとか、記憶から消し去ろうとした感触だとか、常に欲望を誘発する何かだ。


気付かぬまま表わされた欲望は、無防備な視線として対象へ向けられていく。彼ら自身にとって、それはおそらく禁忌である何かなのだろう。それが事実として、醜さそのものでしかないとしても。


そこにある幻想を叶えてやる気などわたしにはない。
どのみち、自分の影を引きずって、いずれ彼らも死んでいくというだけの話だ。