空の焦点

ポケットに手を入れて、冬の空の下を歩く。
昔は三時間でも四時間でも歩き続けていて、家族には帰ってから適当な理由をつけて言い訳していた。


わたしが育った街の思い出を誰かが語る時、いつも奇妙な思いに捉われる。自分の育った場所とその場所が、まるで同じ街には思われないからだ。
わたしにとってそこは友人達と時を過ごす場所ではなかったし、うんざりするような時間の連続を潰していく場所でしかなかった。
ビルの上にある薄曇りの空が、わたしにとっての時間であり、疲労がわたしの記憶だった。
別段どうということもなく、歩みが時を流していく。時は何にも追いつかず、どこに辿り着く事もない。
どこに愛着があるでもなく、執着はたいして場所を取らない。


灰色の空が全ての代わりであり、意識を預ける場所だった。
目を閉じても、空はどこにもない。
空の焦点を、意識をなくしてからずっと探し続けている。