金賢姫の手紙(改題済み)

産経への金賢姫の手紙(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100822-00000551-san-int)が注目されているみたいだけれど、今回の来日はなんだかなあと思った。またかと。
来日の意味が最後までつかめなかったのだけれど、結局中井国家公安委員長(拉致担当大臣)のフライングということなのだろうか。
遡って見る限り、この人なりに問題意識を持って拉致に取り組んでいるように見えるが。


韓国政権は統一に本気ではあるようだし、韓国にとっては離散家族や拉致被害者奪還はむしろ北との統一の問題にもつながるので、本気度はあると解釈して良いのだろう。


今回反応を見ていてまたずれているなと思ったひとつが、金賢姫が厚遇を要求するわけもないのに、彼女自身が批判された事だ。
手紙の中で彼女は中井氏に謝意を示しながらも、厚遇がありがた迷惑であったこと、またそれが批判されるのを危惧していた事を遠回しに述べている。


ノムヒョン政権下では「大韓航空機爆破が北の命令と言ったのは嘘だった」と賢姫に証言させる為、事実上北の影響下にあった国家情報院(韓国の情報機関)と、同じく影響下にあったマスコミに彼女は追い回され、脅され、結局身を隠さざるをえなかった。
政権が変わるまでは、賢姫はほぼ逃亡生活といってよいような状態だったらしい。


となれば、中井氏の気遣いも私には理解できるのだが、今回の来日において、少し前の賢姫の極限状態が日本国民に伝わっていたかというと、ほとんど把握されていなかったと思う(私が見た限りNHKで触れられていたので報道はあった)。


そこまで追い回されるという事は、賢姫が即ち北に全面的な対決姿勢を示しているという事でもあるので、彼女を未だ元テロリストとしてだけ扱うのは適当では無いだろう。


以前脱北者である日本人妻が北朝鮮に連れ戻され、会見で泣きながら金日成万歳と言わされた事件があったが、その頃ネットではその日本人妻が受けていた生活保護の額がやり玉に上がっていた。
保護の額は日本人妻が決めたわけではないのになぜ彼女を批判するのか?
日本での生活基盤を失っているのに、保護なしにどうやって生活を成り立たせるというのか?


いつもこうだ。
今回も金賢姫がヘリを飛ばせといったわけでもない、金を寄越せと言ったわけでもないだろう。
なのに批判は彼女や拉致周辺に向く。



中井氏の見当外れは民主党の現在を象徴している。何をしたいのか、本人はあると言うだろうが、どこにつながるのか客観的には見えない。
氏にとって今回のセッティングは、拉致問題に関する取り組みの中での象徴作りに過ぎなかったのだろうが、焦点の定まらない大きすぎる一歩は邪推と面倒を呼ぶ。
韓国政府にまで面倒は波及した。結局韓国政府は国内メディアに突き上げられ、今回の件に否定的なコメントを出すに至っている。


現実には、拉致担当大臣、国家公安委員長の立場でできる事は限られている。国内での北朝鮮に関連する問題についての内閣のやり方には、中井氏はかなりカリカリさせられていたようで、まったくねと思っていたが、今の内閣が全くやる気が無いのだからどうにもしようがない。拉致に限らず。


朝鮮学校や過去に関して取り組むのも結構だが、現在進行形で北朝鮮の人権問題は存在している。総連が過去をあげつらうのに耳を傾けるなら、北の実態を知りながら彼らが推進した帰国事業で帰った人たちの事を、同時に問い返すべきだ。
帰国した人々は昔でなく今追い詰められているのだから。
朝鮮学校無償化の問題も、現実には差別問題の意識によってなどではなく、在日の朝鮮学校離れを防ぐ為の方策に過ぎないだろう。日本政府の学校への関与は、必ずしも彼らにとって歓迎すべきものではなかったはずだ。
なぜ党に近づいてくる人間が一番重要な人権問題に触れないのか、そもそもおかしいと民主党の人間は気付かないのだろうか。


どちらにしろ現在の北朝鮮の人々の惨状に関しては、我々も不作為だが。



戦前の、それこそ韓国併合以前の地勢学的状態にいったん戻って、問題を捉える必要があるのだろう。韓国が統一に前向きであるのは朗報だが、北朝鮮体制がもし崩壊すれば確実に難民は流れ出す。中国がそれを座視しているわけもない。
半島の不安定化はイコール極東の不安定化だ。日本は一気に直面する。


日本が自分の犯した事に無関心なのは事実だが、半島のこれから起こる問題に直面するのに、民主党の過去の捉え方はむしろ邪魔にしかならない。菅内閣は過去の清算をもって、安全保障において韓国との協力態勢を整えようとしているのかもしれないが、朝鮮民族ナショナリズムは、過去に独立の現実的処方箋とは言えなかったし、むしろ現実には国際状況の中で自国の状況を捉える為の目隠しになってきた。
中国韓国以外まるで目に入っていない民主党も、結局過去には関心がない。その国の活動家にやいのやいの言われるから、その気になっているだけだ。



ロシアにとって北朝鮮は今どういう存在なのだろう。既に傀儡国家とは言えない。ロシア極東での中国の膨張への警戒は、いったどう関わるのだろうか。
おそらく日本がまともな国家だったらば中国ロシアの分断を謀るのだろう。耐え難いほど我々は無防備で、能天気だ。


拉致問題に関しては、核実験というトリガーが引かれてから、解決の手段が格段に減った。
もうこれは複雑な国際関係における、力と駆け引きの問題でしかないし、中国の膨張傾向にとって北朝鮮の存在はますます必要としか読めない。
ただし中国に拉致解決を邪魔する理由もどこにもないのだが。


何も状況は変わっていないのだと思う。時間はこれだけ過ぎたのに。



《追記》
中国が第三国への出国を許可しないため、脱北者瀋陽日本大使館で二年間足止め食っているという話など。その為大使館は現在新たな脱北者は受け入れていない。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2010081202000034.html
http://hrnk.trycomp.net/news.php/eid/news.php?eid=00289


北朝鮮への風船ビラに記載された連絡先に瀋陽日本大使館があったことに、「中国を刺激するから削除してくれ」と大使館側から要請が来たこと。
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/1686172