麻生氏の三島分割発言について

http://d.hatena.ne.jp/LondonBridge/20070917/1189973163


うーん。これはちょっと微妙なところ。


今年一月の外務省公式会見で麻生氏は三島分割・面積分割論についてこう述べてはいるんですが、ちなみにこの答え、少し質問をはぐらかしている。

(問)北方領土問題についてお聞きします。ロシア外務次官が昨年の11月公明党の太田代表との会談で、北方領土問題の面積折半方式について言及したと伺っています。これは大臣の昨年12月の衆院外務委員会での答弁とも少し呼応するようなものなのかと受けとめており、改めて大臣の受けとめと今後の双方受け入れ可能な解決策の中に、この方式が選択肢の一つとして入っていくのかも含めて対処方針についてお伺いします。



外務大臣)前原誠二議員の質問で、北方四島に関して二島返還だ、四島返還だという色々な意見があるが、二島ずつなら面積比でいくと全く意味が違うがその面積比がどれくらいか知っているのかと、面積を正当に割ると三島プラス択捉島の24%ぐらいで丁度半分になるのではないですか、それが正確な数字ですという話をしました。後は皆さんが作った捏造記事ですから。


 「麻生大臣が提案」と言われたが、あれは単に質問に答弁しただけであって、「知っているか。」というから「知ってます。」と答えたら、いきなり「提案」となった。それが波及しているのかもしれませんが、私の色々な考え方として、色々な国と国境問題を抱えていたソ連もしくはロシアが、それらの問題を解決したこれまでの経緯等々を考えなければいけないと思います。双方で納得出来る案というのは、この国とはこうやって納得したのではありませんか、という色々な例をよく調べた上でないと話はなかなか出来ないということだと思います。何れもこれは事務的な話ではなく、政治決着以外方法はないと思います。


http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_0701.html#1-F


で、前原質問。そもそも前原さんがかなり突っ込んだ言い方をしていて、北方領土についてどうすんのよというか、確認のような感じ、質問といった風でもない。長めに引用。


○前原委員 二島が七%、歯舞、色丹で七%、国後を入れて三島で三六%。ですから、おっしゃるように一四%だから、択捉というのは六四%あるわけでして、すごく大きいんです。ですから、今まさに外務大臣がおっしゃったように、半々にしたとしても、択捉はある程度は入れなきゃいけないということで、そこは、三島という言い方をしてしまうと、自民党の議員さんで、モスクワで三島でいいんだなんておっしゃった方が、議長の息子さんでおられるようでありますけれども、これは私はよくない話だと思うんですね。


 繰り返し申し上げますけれども、交渉事ですから、いろいろなアローアンスがあっていい。しかし、中国とロシアが国境線の画定をしたときに、お互い半々にしたんですよ、中ロは。だからそれに倣えということではありません。原則は四島でありますけれども、この問題を本当に解決するんだという意識があれば、今のことも含めて、三島と言い切ってはだめ。つまりは、仮に半分にまけたとしても、私はまけるつもりはありませんが、まけたとしても四島は入るんだというところの認識を持ってこの話はしておかなくてはいけないということであります。



○麻生国務大臣 御指摘のありましたとおりだと存じますが、基本的には、いわゆるこの話をこのままずっと二島だ、四島だ、ゼロだ、一だというので引っ張ったまま、かれこれ六十年来たわけですが、こういった状況をこのまま放置していくというのが双方にとっていいかといえば、これは何らかの形で解決する方法を考えるべきではないか。これはプライオリティーの一番です。


 二番目は、そのときには双方が納得するような話でないといかぬのであって、今言われましたように、二島だ、三島だ、四島だという話になると、これはこっちが勝って、こっちが負けだという話みたいになって、双方ともなかなか合意が得られないといって、ダマンスキー、ダマンスキーというのは例の中国とロシアの間の島のことですが、あのダマンスキーのときも、いわゆるあれで話をつけたという例もあります。

 (略)

 そういった例を引くにつけましても、この種の話をするときに、今言われたように、島の面積も考えないで二島だ、四島だ、三島だというような話の方が、私も全くそうだと思います。


 したがって、半分だった場合というのを頭に入れておりましたので、択捉島の西半分というか、南のところはもらって初めてそれで半分よという話になるんだと存じます。幸いにして、右というか東方、北東の方に人口は集中しておりますので、そこらのところの人口比が圧倒的に多いというのも事実なんですが、いろいろな意味でこれは交渉事ですから、今いろいろ交渉していくに当たって、現実問題を踏まえた上で双方どうするかというところは、十分に腹に含んだ上で交渉に当たらねばならぬと思っております。



http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000516520061213007.htm#p_honbun


最後、実際の言葉のニュアンスが分からないが、面積分割論については頭の内に入っているという感じの言及の仕方に思う。この後に引く記事を読んでから読むと、二人のやり取りのニュアンスがどんなものか分かる。


ここに引用していないところで前原氏が質問の最初に言っている麻生さんの三島発言というのは、時評ではなくインタビューなのだが、外務省会見では前原質問についてだけ述べているがそもそもの発端はそちらのインタビュー。その正誤について言及していない所を見ると、インタビュー記事の自分の発言のニュアンスに実際と齟齬があったたというわけでもないよう。記事は去年九月のものであり(紙面のみの記事)web上に残っているところで引用された記事から該当の箇所を拾うと、


゛異変″が表面化したのは安倍晋三新内閣で再任された麻生外相の毎日新聞との昨年九月二十七日のインタビューだった。領土問題で実質的な進展が全くなく、誤ったメッセージばかりをクレムリンに送り続けて「対露外交・空白の五年間」といわれた小泉純一郎前首相時代の殻を破るかのように、外相自身が奇妙な発言を始めたのだ。翌二十八日の紙面によると、記者の方から唐突にこう質問した。「北方領土問題の解決策として、4島を面積で分割する案はどうですか」と。


 麻生外相はこう答えた。「一つの考え方ですね。2島じゃこっちがだめで、4島じゃ向こうがだめ。間をとって3島とかいう話だろ。それで双方が納得するかですよ。これは役人で決めることはできません。どこかで政治的な決断を下さない限り、下から積み上げてどうにかなる話ではない。この問題への解決(への意欲)は、プーチン露大統領の頭の中にすごくあるように見えますけどね」



 大仏次郎論壇賞の授与で奇怪な「解決案」を称揚する朝日新聞クレムリンの高笑いが聞こえる(P90〜101)
    産経新聞正論調査室長(元モスクワ支局長) 斎藤 勉
 http://www.eis-world.com/template/eiscolum/seiron/070227.html

すごいタイトルだがそれは置くとして、この発言については当時それなりに反応があり、私も鈴木宗男氏の日記を引いて記事を書いた。私の三島発言への言及の仕方も多少迂闊だったかなとも思うのだが(但しそのまま容認と受け取ったわけではない)、麻生氏の発言の柔軟性は明らかだった。領土を半分に分けるのと三島ともまた違っていてそこを前原さんに確認されてもいるのだけれど、この記者の質問に対しての返答として、麻生氏は面積分割に対して否定的な反応はしていない。否定しないということだけでこの問題に関しての姿勢としてはかなり踏み込んでいるといえ、その辺りの麻生氏の発言の微妙なニュアンスは一貫していたように思う。麻生氏は当然北方領土についてロシア側がどう受け取るか意識しながら発言していたはずだし、当時この麻生発言にはロシアの新聞が激しく反応した。
その後の麻生氏発言についてあまり国内報道も見ていなかったのだが、領土問題への具体的な取り組みの姿勢として受け取られたならば当たってはいなかっただろう。ただ、姿勢を示して反応がでるのはわかっていたはずであり、これが嘘これがほんとという明示されるような質の問題ではなく、ロシアの反応を意識しながらの計算ずくの発言だった筈である。今は日本とロシアはこの問題に関してお互いに非常に神経質な駆け引きをしている最中であって、その筋道で理解していかないと解釈を誤ってしまう。



冒頭の記事で引かれている公明党太田代表とロシア外務次官との会談は以下だが、当然新聞での麻生発言を踏まえての反応である。この太田会談を踏まえての前原氏への答弁だったのかと記者に聞かれていたわけだ。
既に記事が消えているので、保存も兼ねてあえてほぼ全文引用。

 北方領土をめぐる日本・ロシア両政府の交渉で、4島返還か2島(歯舞、色丹)返還かという従来の原則的立場を超え、新たな考え方で解決を探る動きが出てきた。ロシアのデニソフ第1外務次官が昨年11月、モスクワで公明党太田昭宏代表と会談した際、ロシアと中国が05年、帰属が確定していなかった国境の島を面積で折半して領土問題を解決した経験を自ら披露していたことが明らかになったためだ。1月下旬にも日露両国外務次官による「日露戦略対話」の初会合が行われるが、ロシア側の責任者の発言だけに、注目される。


 太田氏ら同党議員団とデニソフ次官の会談は、昨年11月23日にモスクワ市内で行われた。


 関係者によると、デニソフ次官は「プーチン大統領は領土問題を凍結するつもりはない。双方で受け入れ可能な条件を探していきたい」と発言。その中で05年6月、中露国境の河川で長年の懸案だった中州3島の帰属について、面積分割の方法で、話し合いにより決着させた経緯を説明した。


 太田氏らは、事前に外務省と「日本側から面積分割の話は持ち出さない」と確認して会談に臨んでいたが、デニソフ次官が自ら言及したため「それを北方領土にも適用できないのか」と質問。デニソフ氏は「線を引けばすむ問題ではない。(互いの国内)世論の問題がある」と答え、同じ方法での早期解決に、会談ではあくまで慎重な姿勢を崩さなかったという。


 ただ、公明党関係者がこの後、ロシアの別の外交筋と領土問題で意見交換した際、この外交筋も「それ(面積分割)で日本は受け入れるのか」と関心を示したという。


 1月の「日露戦略対話」を皮切りに、今年前半にはフラトコフ露首相が来日する予定。08年5月に任期切れとなるプーチン大統領の後継候補の1人、イワノフ国防相兼副首相も年内に来日する見通しで、今年は日露の政府間対話が加速する。


 日本側は戦略対話を停滞する領土問題解決への糸口と位置づけ、安倍晋三首相に近い外務省の谷内正太郎事務次官が責任者として臨む。ロシア側責任者の発言に、与党内には「(7月の)参院選までに成果を上げれば安倍政権の支持率も上向く」との期待感もあるが、公明党訪露団の報告を聞いた安倍首相は「(4島返還という)強い意見があってもいい」と述べ、楽観論を戒めたという。


 麻生太郎外相が昨年12月13日の衆院外務委員会で「面積分割」方式に言及した時は、ロシア側が強く反発し、日本側は「政府として検討しているわけではない」(塩崎恭久官房長官)と否定に追われた経緯もある。政府筋は「動き出すのは2回目の戦略対話からではないか」と述べ、ロシア側の出方を慎重に見極める構えだ。【中田卓二】



北方領土:解決策に「面積分割」案 日露探り合いか  毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070103k0000m010054000c.html


ロシア国内、政府内にも北方領土については強硬派から融和派からいろいろいる。反発はその辺りの事情としても見える。プーチン大統領はかなり融和的な方ではないかというようにも見えるが。
また、佐藤優氏は一月五日の麻生会見を受けてこの記事を書いている。

 「三島返還」「面積二分割」の提案は存在しないことで一応ケリがついた。ただし外交のプロの目をごまかすことはできない。麻生外相の一連の発言が「政治家の思いつき」ではなく、外務省幹部と綿密に打ち合わせた上でのシグナルであったことは、インテリジェンスの手法で外務省の内部事情と外務官僚の報道関係者への働きかけを調べればすぐにわかる。重要なのは北方領土問題で、日本が譲歩する用意があるというメッセージを送ったことだ。クレムリンはそれを正確に受けとめている。


http://www.business-i.jp/news/sato-page/rasputin/200701180009o.nwc

九月の麻生発言の時、坂場外務報道官は外務省の正式見解とは無関係と発言しており、それを鈴木宗男氏が批判していたが、シグナルであったというところは私は佐藤氏と全く同意見である(ただし外務省との「十全な」打ち合わせが出来ていたとは思えない)。佐藤氏にありがちなことで発言にそれなりの揺れもあるように見受けられるが、去年十月の時点では以下リンクのような記事を書いている。九月の麻生発言の意図が外に分からないのが良くないという書き方をしている。


「北方領土」に隘路の懸念 三島返還論が巻き起こした混乱 ラスプーチンと呼ばれた男 佐藤優の地球を斬る



宗男氏はこう。

 坂場外務報道官の記者会見では、外務省は3島での解決は検討した事もないとの事である。これだけでもロシアに間違ったメッセージ、シグナルを送る事になる。

(略)

 この点、麻生外相と外務官僚との間で考えが違うのはどういう事か。国民に対する説明責任を果たして欲しい。


ムネオ日記 2006年9月28日(木) 鈴木宗男ランド ブログby宗援会

鈴木宗男氏から外務省への関連の質問主意書から、やりとりをふたつ抜き出しておく。

「三島返還」についてのイズベスチヤ紙報道に関する質問主意書


一 二〇〇六年九月二十九日付産経新聞は、「日本が三島決着の用意」と題し、
 「ロシアの親プーチン政権派有力日刊紙イズベスチヤは二十八日、一面トップで安倍晋三首相率いる新しい日本政府が北方領土問題でロシアに対し譲歩し、『三島返還』で決着を図る用意があると大々的に報じた。
 『島を分けるときがきたのか?』との見出しを掲げた同紙は、麻生太郎外相が二十七日、北方領土問題について『これ以上、二島か四島かで勝ち負けを議論してもらちがあかない。双方が譲歩しなければ解決されない問題だ』と発言したと紹介し、日本が『センセーショナルな動きを見せ始めた』としている。(モスクワ 内藤泰朗)」


三 「イズベスチヤ記事」の内容を明らかにされたい。


   ↓


三について

 お尋ねの記事の主な内容は、次のとおりである。
 日本の新政権が係争中の島々を事実上分割することをロシアに提案するという衝撃的なイニシアティブを打ち出した。
 麻生外務大臣は、「相互の譲歩がなければ、いずれの側も利益を決して得ることができない。決断が外務大臣ではなく首脳によって下された時にのみ対話は成功を収めることになるだろう。」と述べた。
 麻生外務大臣は、「四でも二でもないその間の何か」という形で問題の解決を模索する提案を行った。この立場は、九月九日のプーチン大統領の言葉に対する答えである。プーチン大統領は、「日本とは、領土的性質を持つものも含め、我々はすべての係争問題を解決したい。我々はこれらの問題を凍結することを望んでおらず、解決したいと心から考えている。ただし、ロシアにとっても日本にとっても受入れ可能な条件の下においてである。」と述べた。



「三島返還」についてのイズベスチヤ紙報道に関する質問主意書及び、衆議院議員鈴木宗男君提出「三島返還」についてのイズベスチヤ紙報道に関する質問に対する答弁書


それとこれ。

三 「麻生発言」は、日本政府が我が国固有の領土である歯舞群島色丹島国後島択捉島より構成される北方領土のうち、三島に対する日本の主権が確認されれば日露平和条約の締結が可能であるとの認識を示すものか。


   ↓


三について

 我が国とロシア連邦は、従来から、北方領土問題に関し、両国が共に受け入れられる解決策を見いだすための努力を行うことで一致している。政府としては、我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して、ロシア連邦との間で平和条約を締結する考えである。平成十八年九月二十七日に行われたインタビューにおける麻生太郎外務大臣の発言の趣旨は、かかる従来の政府の方針を踏まえたものであり、御指摘の認識を示すものではない。



「三島返還論」についての麻生太郎外務大臣の発言に関する質問主意書及び、衆議院議員鈴木宗男君提出「三島返還論」についての麻生太郎外務大臣の発言に関する質問に対する答弁書


関連
第165回国会 25 「三島返還論」についての外務報道官の発言に関する質問主意書




現在の所プーチン大統領は二島返還を打ち出しているが、問題そのものを認めないというスタンスもあった。北方領土への巨額の投資で日本側へ牽制してもいるのだが、昔もそういう試みはあって自然消滅している。ロシアというのは要するにそういう国なのだが、今は資源で金があるからまあそのまま投資はされるのかもしれない。
ひとつ気になったのはラトビアの領土関連。(この記事は数日で消えるので注意)


ロシア、ラトビアと国境条約を批准 ラトビア、自国領返還を断念(09/06 08:22) 国際 北海道新聞http://www.hokkaido-np.co.jp/news/international/47719.html



少なくとも分かりやすい形での四島一括返還というのは現実にありえないのだが、それすら認識されていないように思う。
何か認識が抜けている可能性もあるが、割と一貫してこの問題を認識している人が少ないので一応記事を書いた。事の性質上引用が長くなってしまったが、記録の意味合いもあるので。
疲れた。